型彫放電加工の特徴の1つとして、電極の材料に色々な材料を使えることがあります。
例えば、ワイヤーカット放電加工だと、細いワイヤーを成形する必要があり、その材料が限られてしまいます。基本的にはワイヤーカット放電加工のワイヤーの材質は黄銅(真鍮)です。
これに対して、型彫放電加工では、銅、黄銅(真鍮)、グラファイト、銀タングステン、銅タングステン、タングステン等様々な材料を使用することができます。電極に使用する材料の特性に応じて加工性等も変化するため、様々な用途に応じて電極を使い分ける必要があります。
しかしながら、電極材料をうまく使いこなすことで、型彫放電加工はワイヤーカット放電加工以上の様々な加工、様々な材料を加工できる魅力的な加工方法であると言えます。
以下、主な電極材質について説明します。
1. 銅
電極材質として銅は、型彫放電加工において最も基本的な材質です。
銅を電極材質とした場合におけるメリットとデメリットをまとめると以下の通りです。
メリット
・コストが安い
・電極形状が豊富(角材、丸棒、パイプ電極、コアレスパイプ電極)
・電気抵抗が小さい
・熱伝導率が高い
デメリット
・機械加工性が劣る
・熱膨張係数が大きい
電極材質を銅とした場合、熱膨張係数が大きいことから熱の影響で電極寸法の変化が大きく、微細な加工や高精度の加工を行う場合、注意が必要です。
しかしながら、型彫放電加工における電極材質の中でもコストの安さ、そして、電極形状の豊富さから幅広い加工に使用できる材質です。
2. グラファイト
グラファイトを電極材質とした場合におけるメリットとデメリットをまとめると以下の通りです。
メリット
・耐熱性が良好(昇華点が3700K 昇華:固体から液体を経ずに気体と
なること)
・機械加工性が良好
・熱膨張係数が銅の1/3
デメリット
・面粗さに劣る
・粒径サイズによっては異常放電しやすく電極消耗を大きくした
放電条件に設定する必要あり(仕上げ加工領域の使用に注意が必要)
グラファイトはその耐熱性や機械加工性が優れていることから、電極制作時の加工効率が高いです。加えて、剛性も高いことからリブ加工用の細い電極にも向いています。
さらに、超硬材を加工する際には、その耐熱性を生かして荒加工をするのに適しています。
3.銅タングステン
銅タングステンを電極材質とした場合におけるメリットとデメリットをまとめると以下の通りです。
メリット
・銅の熱伝導率とタングステンの高融点の双方の利点を有している
・機械加工性が良好
・無消耗・低消耗加工が可能
・超硬材の加工に適している
デメリット
・価格が高い(銅の約40~50倍程度の価格)
・銅に比べて 加工速度が遅い
電極消耗率が劣る
銅タングステンは、銅よりも優れた性質から幅広く加工に用いられています。また、銅タングステンを材質とした電極には、角棒、丸棒だけでなくパイプ電極もあることから、型彫放電加工において使用される場面が多い電極です。
4.銀タングステン
銀タングステンを電極材質とした場合におけるメリットとデメリットをまとめると以下の通りです。
メリット
・機械加工性 良好
・放電加工性 良好
・剛性 高い
・微細加工に適している
・超硬材の加工に適している
デメリット
・価格が高い(銅の約80~100倍程度の価格)
銀タングステンは型彫放電加工における電極材質としては、良好な特性を有しており、加工全般に使用可能です。さらに無消耗・低消耗加工も可能であり、使い勝手のよい電極材料です。唯一の問題点は価格が高く、コスト的に銅やグラファイト等の材料に立ち打ちできないことです。基本的には、高精度かつ単価の高い案件で使用することの多い電極材質です。